焔の物語 · 第3話
「潮騒の黒い粒」

フーコック島の午後、熱せられた土の匂いが浜風に混じる。手元の小さなざるには、太陽を吸い込んで硬く締まった胡椒の粒が転がっている。ここでは時間は海の色とともに移ろう。
かつてこの島へ渡ったとき、持ち合わせたものは古い地図と身ひとつだった。異国の風土に根を下ろすことは、まるで乾いた大地に種を蒔くような孤独な営みだ。指先で黒胡椒をひとつまみ、太陽の熱を帯びたそれは、ピリリとした命の予感を宿している。
遠くで漁船のエンジン音が低く響き、網を繕う男たちの声が途切れては流れる。私はその粒をそっと口に含んだ。辛味の奥に、過ぎ去った季節の記憶と、この土地の誇りが微かに溶け出す。
台所の瓶に詰めれば、明日また誰かの食卓で、ささやかな彩りを添えるだろう。午後の日差しが影を長く引き伸ばし、島はふたたび静寂のなかに沈んでいく。