焔の物語 · 第4話
「春の蔵、干し柿の翳り」

京の郊外、かつての酒蔵を改装した住まいの梁から、幾筋もの吊し柿が下がっている。春を迎え、しっとりと飴色を増した果実は、外の湿った風を吸い込んで、重そうに揺れた。かつて祖母が教えてくれた通り、皮を剥き、日陰でじっくりと時間をかけて干したものだ。
庭では早咲きの雪柳が白く滲んでいる。私は古びた真鍮の盆に、二つの果実を載せた。指先に触れる果肉は、驚くほど柔らかく、深い甘みを湛えている。
湯気を立てるほうじ茶の香りが、蔵の静寂をゆっくりと塗り替えてゆく。誰に振る舞うわけでもない、ただ過ぎ去る時間を慈しむような午後。干し果実の琥珀色が、窓から差し込む春の光に透け、淡い影を床に落とす。
何も語らずとも、この甘露が口の中で解けるとき、私はようやく季節の移ろいと自分自身を和解させることができるのだ。
焔 — Maison Homura