焔の物語 · 第1話
「真冬の火種」

真冬の張り詰めた夜明け、北国の古い民家の土間で、私は豆を挽く。粉が跳ねる乾いた音が静寂に染み込み、挽きたての香りが冷気を微かに揺らした。今日は山から切り出した硬い薪をくべ、鉄瓶を火にかける。
手元に置いたのは、友人が送ってくれたカカオの豆だ。本来の用途ではないかもしれないが、少しだけ熱した鉄板の上にのせてみる。微かに焦げる甘い匂いが立ちのぼり、台所を懐かしい記憶で満たしていく。
窓の外では、夜の闇がようやく薄まり、積もった雪が青白く光り始めた。火種は消えそうになっても、薪の奥で赤く脈打っている。一杯の温かい飲み物を待ちながら、私はただ、その小さな熱を見つめていた。
寒さは厳しいが、今はその厳しさすらも、この琥珀色の液体を味わうための贅沢な調味料に思える。春はまだ遠い。けれど、今はこれで十分だった。
焔 — Maison Homura